問 100 感染症の原因菌の同定には、菌体のタンパク質を分析対象として、イオン化部
にマトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)法、質量分離部に飛行時間
型質量分析計(TOF-MS)を用いる MALDI-TOF-MS が利用されている。この質
量分析法に関する記述として、正しいのはどれか。2つ選べ。
1 マトリックスと混合されたタンパク質は、高電圧を印加したキャピラリー先端
から噴霧してイオン化される。
2 タンパク質と混合するマトリックスには、レーザー光を吸収する化合物が選択
される。
3 質量分離部では検出器までの飛行時間が短いほど、タンパク質イオンの m/z
値は小さい。
4 この質量分析法の装置は、高速液体クロマトグラフやキャピラリー電気泳動装
置と直接接続して用いる。
5 マススペクトルには、タンパク質にマトリックスの質量が付加されたイオン
ピークが主に観測される。
解答・解説を見る
■ 正解
2, 3
■ MALDI-TOF-MS の原理の要点
MALDI-TOF-MS は、タンパク質などの高分子をソフトにイオン化し、飛行時間で m/z を測定する手法である。 感染症の原因菌同定では、菌体タンパク質の「質量指紋」を測定し、データベースと照合する。
MALDI(イオン化部)と TOF-MS(質量分離部)の両方の理解が必要となる。
■ 各選択肢の検討
● 1:マトリックスと混合されたタンパク質は、高電圧を印加したキャピラリー先端から噴霧してイオン化される。(誤)
これはエレクトロスプレーイオン化(ESI)の説明である。 MALDI はレーザー照射による脱離・イオン化であり、キャピラリー噴霧は行わない。 したがって誤り。
● 2:タンパク質と混合するマトリックスには、レーザー光を吸収する化合物が選択される。(正)
MALDI では、マトリックスがレーザー光を吸収し、エネルギーをタンパク質へ伝達してイオン化を助ける。 そのため、レーザー波長に強く吸収をもつ芳香族化合物などが選ばれる。 よって正しい。
● 3:質量分離部では検出器までの飛行時間が短いほど、タンパク質イオンの m/z 値は小さい。(正)
TOF(飛行時間型)では、 同じ加速電圧で加速されたイオンは、m/z が小さいほど速く飛ぶ。 したがって、 ・飛行時間が短い → m/z が小さい ・飛行時間が長い → m/z が大きい となる。 よって正しい。
● 4:この質量分析法の装置は、高速液体クロマトグラフやキャピラリー電気泳動装置と直接接続して用いる。(誤)
HPLC や CE と直接接続するのはESI-MSである。 MALDI はプレート上に試料をスポットして測定する方式であり、オンライン接続は行わない。 したがって誤り。
● 5:マススペクトルには、タンパク質にマトリックスの質量が付加されたイオンピークが主に観測される。(誤)
MALDI では、タンパク質は主に 1 価のプロトン付加([M+H]⁺)として観測される。 マトリックス付加イオンは副生成物としてわずかに見られることはあるが、 主ピークではない。 したがって誤り。
■ まとめ
- MALDI:レーザー吸収マトリックスが必要 → 2 正
- TOF:飛行時間 ∝ √(m/z) → 時間短いほど m/z 小 → 3 正
- ESI と混同しない(キャピラリー噴霧・HPLC 直結は ESI)
- 主ピークは [M+H]⁺、マトリックス付加は主成分ではない
